獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「アメリ」


その夜、カイルはベッドの中で苦しげにアメリを呼んだ。


「俺は、運命が恐ろしい」


救いを求めるように柔らかな胸に顔を寄せる金糸雀色の髪を、アメリは幾度も優しく梳く。


「なぜですか?」


「俺は、この国の王にはなってはいけない人間だ。それなのに、王になってしまった。今俺が死ねば、世継ぎのいないこの国は亡びる」


予言の書に書かれていたことが本当になるのではと、カイルは懸念しているのだろう。


生まれた時からその古文書に運命を左右されてきたカイルにとって、予言の書は脅威なのだ。







「いいえ、恐れることはありません。あなたはなるべくして王になった方です」


アメリは、胸にきつくカイルを抱きしめた。


「運命などありません。予言に書かれていたことも、信じなくていい」


カイルの額にキスを落とし、アメリは微笑みかける。


「あなたは、私だけを信じていればいいのです」






順風満帆な生い立ちではなかった。


幼くしてたった一人の身よりである母を失い、世の中に放り出された。


ウィシュタット家に連れて行かれてからは執拗なまでのいびりを受け、自分の存在価値を失った。


自分は何のため生まれたのか、何を信じて生きて行けばいいのか、苦しんでばかりだった。


けれどもカイルと出会って恋をし、身がそがれるほどの深い愛を知り、アメリは知った。


自分が何のために生まれ、何を信じて生きて行けばいいのかを。







全身全霊をかけて、強くも弱いこの人を守りたい。


いいえ、なにがあろうと守らなくてはいけない。


そんな充実感で、アメリの心は満たされている。
< 170 / 197 >

この作品をシェア

pagetop