獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
第九章 裏切りの彩色

騎士団が旅立って、一ヶ月が過ぎた。季節は初冬を迎え、紅葉を終えた木々は日に日に葉を散らしている。


戦況の悪化に伴い、アメリは街へ繰り出すのを自重していた。シルビエ大聖堂の改修工事の行方は気になるが、今はこの国の王の婚約者である自分が、易々と街に乗り出してはいけない時期であることも分かっている。


そのため、アメリは大量の使用人が解雇させられたためてんてこまいの城で、侍女と変わらぬ仕事をして日々を過ごしていた。


仮にも王の婚約者であるアメリが雑用仕事をすることに城の者は難色を示したが、アメリとしては日々戦地にいる騎士団のことを想い悶々と過ごすよりは、動いている方がよほど気が紛れるのだった。


どんなに拒絶しようと翌日には開き直って掃除に勤しんでいるアメリに、やがて誰も何も言わなくなった。






騎士団が、無事にラオネスクに辿り着いたのか。テス族の長との交渉がうまく行き、ハイデル公国との国境越えが許されたのか。情報は、相変わらず入っては来なかった。


無力なアメリに出来るのは、カイルを信じて待つことと、朝晩一時間の祈りを捧げることのみだった。


ある時、礼拝堂を出て王城内を歩いていた時、中庭に面した回廊で「アメリ様」とレイモンド司祭に呼び止められる。


アメリを見つめるレイモンド司祭の顔には、明らかな不安の色が滲んでいた。





「顔色がお悪いようだ。きちんと、食事は摂られていますか?」


シルバーの眼鏡の向こうの瞳が、アメリを気遣うように揺らぐ。


実際食欲のない日々が続いていたのだが、アメリはレイモンド司祭に心配をかけまいと、出来るだけ清々しく笑って見せた。


「ええ、ご心配には及びません。レイモンド様こそ、お忙しいのでは?」


王が不在の間、レイモンド司祭は城の一切の責任を負わされている。


聖職者としての仕事もろくに手をつけることが出来ず、日々あくせくと働きまわっているレイモンド司祭は、目に見えて疲弊していた。


頬はやつれ、目の色にも覇気がない。


「なに、取るにたらないものですよ。そんなことよりも、私は騎士団の安否が気がかりでして」

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