獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
レイモンド司祭の声が、ワントーン下がる。


どこか嫌悪感溢れるもの言いに、アメリはレイモンド司祭が言葉通り騎士団の身を案じているだけではないことを感じとった。


レイモンド司祭は、最後まで騎士団のラオネスク入りを反対した国の幹部の一人だ。悪魔を崇拝していると言われているラオネスクのテス族は、聖職者からは忌み嫌われている。


悪魔の地に足を踏み入れるなど、言語道断。レイモンド司祭の言葉には、そんな言い分が含まれているのだろう。


「無事を、お祈りするばかりです」


アメリは、言葉を濁した。アメリの杞憂を感じ取ったのか、レイモンド司祭は我に返ったように微笑む。


「大丈夫ですよ、アメリ様」


レイモンド司祭が、励ますようにアメリの肩に触れた。


「この国は、必ず正しい道に進めます」






レイモンド司祭の柔和な笑みに心を癒されつつ、アメリは空の彼方を見つめた。


この空の先にハイデル公国があり、その更に向こうにラオネスクが存在する。


未開の地を颯爽と馬で駆ける愛しい人の姿を心の中で思い描きながら、アメリは祈りを込めるようにそっと目を閉じた。







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