獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「地図によると、そろそろ国境です」


ブランと並んで馬を走らせている赤毛のカールが、大声でカイルに告げた。


ほどなくして、カイルは視線の先に違和感を覚える。闇の中でうねっているのは、水面のようだ。


「まさか、川か……?」


カイルの隣を駆けていたヴァンが、絶望的な声を上げた。


カイルが馬を停止させると、彼に続いて騎士達も次々と手綱を引いた。


川のせせらぎに混じり、馬の嘶きが虚しく響き渡る。


「川だと? 川など、テス族の長からもらったこの地図には書かれていないぞ」


「あいつら、適当に地図作ってそうだもんな」


カールが困惑したように言えば、ブランが場違いなほどの呑気な声を返す。







カイルは、月の光を頼りに冷静に川を観察した。


細い川ではない。五十メートルといったところだ。水流もやや激しい。


だが、一番問題なのは深さだ。


「馬で渡れるのか……。だが、これから戦闘だというのに馬を置いていくわけには……」


不安げなヴァンの声を聞きながら、カイルは馬から降りた。そして、寒空の中上衣を脱ぎ捨て上半身裸になる。


カイルの行動に、騎士達が騒然とし始めた。ヴァンが、怪訝な目でカイルを見る。


「何をしているのです?」


「潜って調べるからに決まっているだろう。お前は馬鹿か」


罵られたことでムッとした表情に変わったヴァンを尻目に、カイルは迷いなく川に身を沈めた。
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