獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
寒さも厭わず、騎士達は一斉に馬で川に侵入した。


水流にとらわれないように手綱を操りながらズブズブと先へ進めば、いよいよハイデル公国の領土が目前に迫ってくる。


(ようやく、この時が来たか)


カイルの体の奥底から、燃え滾るような闘志が湧いてきた。


「あなたに、一つ言っておきたいことがある」


すると、隣で川を渡っていたヴァンが、前を見据えながら唐突にそんなことを言い出した。


「俺は、あなたが嫌いだ。性格が悪いところも、俺の大事なアメリ様を翻弄してばかりのところも嫌いで仕方がない」


「……何が言いたい」


カイルがぎろりと睨めば、他人を見透かすようなブラウンの瞳がこちらに向けられた。


「だが、あなたのためなら喜んでこの命を差し出そう。あなたは、それだけの価値がある人間だ」





いけすかない色男の思いがけない台詞に、カイルは驚き目を見開いた。


そして、フッと口もとを緩める。


「俺もお前が嫌いだ。機会があれば、ど田舎のリルべ辺りに左遷してやろうといつも思っている」


「………」


「だが、アンザムの血筋を失うのは惜しい。血も涙もないハイデル公国の重鎮の中で、お前の父親は周辺国にも理解のある優れた人格者だった」


隣で、ヴァンが息を呑む気配がした。


「お前の家系に、爵位を取り戻してやることは俺には出来ない。だが、新たな爵位を授けることは出来る。子爵なんてせこいことは言わない、何でも望む地位をくれてやる。もしも、この戦で手柄を上げたならな」
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