獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
はっと息を呑むと、アメリは見張り番の指さす方向を見た。


確かに、リエーヌの郊外に広がる草原に、無数の黒い影が見える。


暗闇の中、馬に乗って懸命にこの城を目指している騎士達だ。


「ああ、神様……」


目に涙を浮かべたアメリは震える息を吸い込むと、ガウンを引っ掻けるのも忘れ、ネグリジェ姿のまま大急ぎで廊下へと飛び出していた。





見張り番の鐘によって呼び起こされた人々は、半ばパニック状態だった。


侍女や主従たちが着の身着のまま、戦地から戻った国王を出迎えようと必死に城の入り口を目指している。彼らに紛れて、アメリも回廊を駆け抜けた。


「ああ、何てことだ……」


途中で、レイモンド司祭にも出くわした。アメリと同じく目に涙を浮かべている彼は、突然のことに気持ちが追い付いていないようだ。


「まさか、あの悪魔の地を超えるとは……」


城の入り口まで行けば、戦士達を出迎えるために衛兵が屈強な門扉を開けてくれた。


真っ直ぐに伸びた跳ね橋の向こうには、既に遠く人影が見え、馬の蹄の音も響いている。


門扉の前に集まった者たちは、口々に歓喜の声を上げ始めた。


「ああ、ついにお戻りだわ!」


「勝ったんだな! 勝ったんだ! あのハイデル公国に、ついに勝ったんだ!」


「陛下に、この国をお救いになられた気高き獅子王様に、早くお会いしたい……!」

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