獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
(なんてこと……!)


アメリは、震えながら前を見据えた。


こんなにも間近にいた敵に、どうして今まで気づかなかったのだろう。


司祭であり古参者だという二面だけで、彼を信頼しきっていた。


レイモンド司祭は、奇妙なほどにカイルの死を予言した古文書にこだわっていた。その時を狙って国を侵略するため、長年この国に潜伏していたのかもしれない。


だが、カイルは死ななかった。だから、自らの手で予言を遂行しようとしたのではないだろうか。城中どこでも出入りできるレイモンド司祭ならば、食事に猛毒ゼロノスを入れることは可能だ。


手違いからカイルは死ななかったが、今もずっと暗殺の機会を狙っていたのだとしたら――。




カイルの数歩前まで近づいたレイモンド司祭が、ゆっくりと自分の懐に手を入れる。


途端に全身に悪寒が走り、アメリは無我夢中で走り出していた。


カイルも、その周りにいる騎士達も、油断のあまりレイモンド司祭が手の内側に忍ばせた短剣に気づいていない。


カイルが、近づいてくるアメリを見つめて微笑んだ。


そして、アメリを欲するように両手を大きく広げる。


(どうか、間に合って――)


アメリは、死に物狂いでその胸に飛び込んだ。


カイルは、優しくアメリを受け止めると、きつく抱き締める。


「会いたかった……」


温もりに包まれ、愛しい声に耳もとで囁かれると同時に、アメリの背中に鋭い痛みが走った。


カイルを狙ったレイモンド司祭の短剣が、突然のアメリの出現によって遮られ、カイルではなくアメリに刺さったのだ。






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