獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「う……」


アメリは小さなうめき声を上げると、カイルの胸にもたれかかった。傷口から傷みが全身に走り、立っていられないほどの倦怠感に襲われる。全身から汗が噴き出て、傷口からは血が溢れ出すのを感じた。


「アメリ……?」


異変に気づいたカイルは目前で短剣を手にしているレイモンド司祭に気づくと、表情を一変させた。






またしてもカイルの命を奪えなかったことに混乱しているのか、「なぜだ、こんなはずでは……!」とレイモンド司祭は狂気的な声を上げている。


そしてすぐさま、ナイフを自分の喉元に突き付けた。


「ハイデル公国、万歳!!!」


耳を疑うような絶叫を残すと、レイモンド司祭は自らの喉を剣で突き刺した。そして、あっという間に息絶えてしまったのである。


「まさか、あろうことかこの男が間者だったのか……。ああ、アメリ様……」


どこからか、動転したヴァンの声がした。




薄れ行くアメリの視界に、狼のように殺気を漲らせ、怒りで小刻みに震えているカイルの姿が映った。


カイルはアメリを抱きかかえたまま腰から剣を抜くと、狂ったように地面に転がるレイモンドに突き立てた。


幾度も幾度も、残酷なまでにもう動くことのない彼を伐りつける。


「陛下、もうおやめください。その者は、とっくに死んでいます!」


暴れる野獣を背後から取り押さえたのは、赤髪のカールのようだ。


その声でようやくカイルは我に返ると、肩で激しく息をしながら自らの胸の中にいるアメリに視線を戻す。


(なんて、哀しそうな顔なのかしら……)


アメリは、カイルにそのような表情をさせてしまったことが心苦しくなる。
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