獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
――――……
「アメリ様」
「う……ん」
苦し紛れに出した声が、アメリを現実世界に引き戻した。
目を開ければ、心配そうに自分を覗き込んでいる男の顔が飛び込んでくる。無造作なブラウンの髪に、同じ色の瞳。他人を見透かすような垂れ気味の目もとには、男の色香が漂っている。
「ヴァン……。どうかした?」
「うなされていたようですが、大丈夫ですか?」
そこでようやく、ひっきりなしに響いている車輪の音がアメリの耳に届く。規則正しい馬の蹄の音に合わせて、室内がガタゴトと揺れていた。
(そうだった。今は、馬車の中だわ)
また例の悪夢にうなされていたことに、アメリは気づいた。窓の外を見れば、眠る前までは田園風景だった情景が街並みに変わっている。あと少しで、おそらく城なのだろう。
「大丈夫よ、ヴァン。心配しないで」
アメリは背筋を伸ばし、座り直した。額に浮かんだ汗を、さりげなくハンカチで拭う。
そんなアメリを見て、ヴァンは彼女を労わるように瞳を細めた。
「それなら良かった。ところで見てくださいよ、ここが城下町のようだ。予想はしていたが、冴えない町ですね」
話しを切り替え、ハハハ、と今の状況を笑い飛ばすヴァン。おそらく、アメリの気持ちを和ませようとしているのだろう。そういう男だ。
「この分だと、城は蔦まみれってとこかな。まあ、それはそれで面白そうだ」