獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
逃げ出したい思いに囚われながら、それ以降は城の中でカイルと顔を合わすこともなく、侍女のようにあくせくと働く日々が続いた。
アメリが城に来て、七日目のことだった。
その日、アメリは、薪を運ぶために納屋へと向かっていた。空には青空が広がり、うららかな春の陽気が辺りに満ちている。両側に芝生が広がる道を、アメリは押し車をカラカラと押しながら歩んでいく。
しばらくすると芝生に大勢の人影が見え、剣と剣の擦れ合う音や、威勢のいい掛け声が響いてきた。ロイセン城の騎士達だ。彼らは、訓練のために日中のほとんどをここで過ごしている。
(ヴァンはいるかしら……?)
自然と、そちらの方に目が行ってしまう。重そうな鎖帷子や鎧を身に付け、剣をぶつけ合っている騎士達を、一人一人見分けていく。
そのうちに、アメリはぎくりとして足を止めた。
大勢の騎士達の中に、カイルと思しき鎧兜の男を見つけたからだ。
訓練中のことなので他にも鎧兜を被っている騎士はいるのだが、スラリとした体躯には見覚えがあった。以前と同じ藍色の衣服に肩と胸を覆うだけの簡易的な鎧で、カイルは三人の騎士の相手をしているところだった。
(え? 一人で同時に三人の相手をするの……?)
思わず、目が釘付けになる。三人の騎士達はじりじりとカイルに迫っているが、カイルは怯む様子もなく、剣を構え、冷静に彼らの出方をうかがっていた。
一人の騎士が、カイルに切りかかった。カイルは素早い身のこなしで剣を払いのけると、ほぼ同時に襲い掛かって来た騎士の剣をも振り払う。
――キン、キンッ!
一際高い剣の音が、空高く響き渡る。辺りの騎士達も稽古の手を止め、カイルの動きに目を奪われている。
「わぁぁぁ!」
最後の騎士が雄たけびを上げ、カイルに向かっていった。だがカイルは、容赦なく彼の剣を自らの剣で弾く。宙に放り出された彼の剣は、勢いそのままに地面に刺さった。近くにいた騎士達が、恐れおののいた視線をカイルに送っている。
カイルに打ち負かされた三人の騎士は、圧倒されて最早動く気力もないようだった。カイルはそんな彼らを見下げるように首を傾げると、
「練習不足だな」
一言いい捨て、剣を鞘にしまってその場を離れる。
アメリが城に来て、七日目のことだった。
その日、アメリは、薪を運ぶために納屋へと向かっていた。空には青空が広がり、うららかな春の陽気が辺りに満ちている。両側に芝生が広がる道を、アメリは押し車をカラカラと押しながら歩んでいく。
しばらくすると芝生に大勢の人影が見え、剣と剣の擦れ合う音や、威勢のいい掛け声が響いてきた。ロイセン城の騎士達だ。彼らは、訓練のために日中のほとんどをここで過ごしている。
(ヴァンはいるかしら……?)
自然と、そちらの方に目が行ってしまう。重そうな鎖帷子や鎧を身に付け、剣をぶつけ合っている騎士達を、一人一人見分けていく。
そのうちに、アメリはぎくりとして足を止めた。
大勢の騎士達の中に、カイルと思しき鎧兜の男を見つけたからだ。
訓練中のことなので他にも鎧兜を被っている騎士はいるのだが、スラリとした体躯には見覚えがあった。以前と同じ藍色の衣服に肩と胸を覆うだけの簡易的な鎧で、カイルは三人の騎士の相手をしているところだった。
(え? 一人で同時に三人の相手をするの……?)
思わず、目が釘付けになる。三人の騎士達はじりじりとカイルに迫っているが、カイルは怯む様子もなく、剣を構え、冷静に彼らの出方をうかがっていた。
一人の騎士が、カイルに切りかかった。カイルは素早い身のこなしで剣を払いのけると、ほぼ同時に襲い掛かって来た騎士の剣をも振り払う。
――キン、キンッ!
一際高い剣の音が、空高く響き渡る。辺りの騎士達も稽古の手を止め、カイルの動きに目を奪われている。
「わぁぁぁ!」
最後の騎士が雄たけびを上げ、カイルに向かっていった。だがカイルは、容赦なく彼の剣を自らの剣で弾く。宙に放り出された彼の剣は、勢いそのままに地面に刺さった。近くにいた騎士達が、恐れおののいた視線をカイルに送っている。
カイルに打ち負かされた三人の騎士は、圧倒されて最早動く気力もないようだった。カイルはそんな彼らを見下げるように首を傾げると、
「練習不足だな」
一言いい捨て、剣を鞘にしまってその場を離れる。