獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
鎧兜で顔の見えない男に、見つめられるのは怖い。


中身が非道な王太子だと知っているなら、尚更だ。


アレクは金魚のようにぱくぱくと口を動かし、声にならない声を上げた。どうやら、怯え切って言葉が出ないらしい。


すると、ふいにカイルが自分の鎧兜に触れた。そして、目もとを覆っていた部位を引き上げる。


青い瞳が姿を現し、アレクははっとしたように魅了されていた。カイルはいつも鎧兜で自分の顔を隠しているので、瞳を見るのはおそらく初めてなのだろう。





「よわむし……アレクです……」


やがて、か細い声でアレクは答えた。


かわいそうに、と木陰から見ていたアメリはやるせなくなる。弱虫アレクと仲間から罵られ続け、少年はそれが自分の名前だと思い込んでいるのだろう。


するとカイルは首を傾げ、「それは、本当の名前ではないだろう」と言った。


「ここに来る前までに呼ばれていた、お前の本当の名前を聞いているんだ」


アレクは小さな目で、驚いたようにカイルを見つめていた。それから思い出したように、舌ったらずの声を出す。


「アレクサンドル・ベル……」





アレクの返事を聞き届けてから、カイルは自分の懐に手を忍ばせた。取り出したのは、銅製の鍵だった。


「アレクサンドル。これを受け取れ」


「これは……?」


「図書室の鍵だ。お前は本が好きなのだろう。いつも、この場所で本を読んでいる」


アレクが息を呑んだのが、木陰にいるアメリにまで伝わって来た。
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