獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「お前に剣術は向かない。もう訓練には来るな。その代わり、今からは図書館主の手伝いをしろ。この先、ずっとだ」


「……いいのですか?」


「俺が良いと言ったら良いに決まっているだろう。図書館主ももう老いぼれだし、そろそろ代わりが必要だと思っていたところだ」


アレクの顔に、みるみる光が射していく。アメリは、無色のガラスに鮮やかな色が流し込まれる様を思い出した。色のないガラスは息吹を吹き込まれた途端に、まばゆいほどの輝きを見せる。アレクの表情の変化は、それに似ていた。


「お、王太子様……。ありがとうございます……!」


見たこともないような子供らしい無邪気な笑顔を見せたあと、アレクはしっかりと鍵を握り締め、図書室の方へと走り出した。足取りは軽く、まるで羽が生えたかのようだ。


噴水に腰かけ、そのうしろ姿を見送るカイルの表情はアメリからは見えない。カイルは、いつまでもアレクの消えて行った方向を見ていた。






予想もしなかった光景を目の当たりにして、アメリの胸はトクトクと鼓動を早めていた。


(あの人は、本当に悪魔なのかしら……?)


昨日アレクに冷たい態度を取ったのは、騎士に向いていないことを身を持って教えたかったからなのだろうか。


皆に弱虫アレクと罵られていたアレクを、カイルはアレクサンドルと呼んだ。そしてアレクが本好きなことを知っていて、彼に適切な役割を与えた。やることは乱暴で口も悪いが、その一連の行動は、小さな少年に対する思いやりで溢れている。


悪魔と揶揄される表の顔と、ぶっきらぼうでも小さなものを労わる裏の顔。


カイルの二面性の激しさに、アメリの頭は混乱する。


(あの人は、どういう人なの……?)


と、その時。





――カタンッ!


足もとから響いた音に、アメリはビクッと顔を上げた。


どうやら、気が緩んだ隙に手を滑らせ箒を倒してしまったようだ。







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