獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
しまった、と思った時には手遅れだった。


噴水に腰かけたカイルが、こちらに顔を向けていたからだ。


「ご、ごめんなさい……! ここの掃除をしていただけで、覗くつもりじゃなかったんです……!」


カイルの別の顔を見たとはいえ、彼に対する恐怖心は拭えていなかった。


カイルが、思いもしないほど優しい心を秘めているのは分かった。


だが、その優しさはアメリには向けられることはないだろう。アメリは、心底彼に嫌われているからだ。


アメリは、箒を拾うとすぐに中庭から立ち去ろうとした。掃除は、時間を置いてまたしに来たらいい。


ところが、踵を返した背中に思いもしなかった声が投げかけられる。






「こっちに来い」


アメリは、恐る恐る後ろを振り返った。噴水に座ったままのカイルは、どうやらアメリを見ているようだ。


「私に言ったのですか……?」


「お前以外に誰がいる」


カイルの口調が、苛立ちを含んだものに変わる。アメリは慌てて箒を木に立てかけると、ゆっくりとカイルに歩み寄った。





アレクには見せていた瞳は、再び鎧兜で覆い隠されていた。目前で足を止めたアメリに、顔の見えない顔がじっと視線を注ぐ。


長い沈黙が訪れた。遠く、騎士達が剣をぶつけ合う音が聴こえ始める。休憩が終わり、訓練が再開されたのだろう。


カイルは、いつまでも何も言おうとしない。このままでは、次の仕事に差しさわりが出てしまう。アメリに課せられた雑用は、山ほどあるのだ。


「あの……」


「昨日は、すまなかった」







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