獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「けれど」


本当は、怖い。もしも、いまだかつてないほど怒らせてしまったらどうしよう? 彼は迷いなく、その腰に差した剣でアメリを伐りつけるかもしれない。もしも、彼が噂通りの悪名高き王太子ならば――。


「もしもその鎧兜を脱ぎ、私にお顔を見せてくださるのであれば、許すことも考えましょう」





銀色に妖しく光る鎧兜が、アメリを深く見入る。


アメリは乱れ打つ心臓に気づかれないよう、精一杯平生を装った。口もとを引き結び、瞳に力を込めて、座っているカイルに集中する。


永遠に続くのではないかと思うほど、長い沈黙が訪れた。


やがてカイルは、不機嫌そうに首を傾げた。


「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」


「分かっております。太った牛でも、私は許容範囲でございます」


「太った牛? 何のことだ?」


カイルの声が、低く凄む。


余計なことを言ってしまった、とアメリは後悔した。この様子だと、鎧兜を取ってはくれないかもしれない。


けれども、素顔を知らずにどうして彼のことを知ることが出来るだろう?





その時、諦めたようにカイルが鎧兜に手を伸ばした。


あっと思った時にはもう、重厚な鎧兜は彼の頭から離れていた。


鎧兜を手に、軽く頭を振るカイル。空高く昇る太陽が、初めて目にするカイルの素顔を照らした。


アメリは、息を呑んだ。







(金糸雀色……)





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