獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
討論の末、アメリに手を貸すことになったのは、二人の若い騎士達だった。


一人はカールという赤い短髪の男だった。背が高く、筋肉質な胸板をしている。


もう一人はブランというウェーブした黒髪の優男風の男だった。どちらも、年はアメリより少し上ぐらいだ。







「本当に、すみません。こんなことを手伝わせてしまって」


「いえいえ、気にしないでください。ヴァンさんの言う通り、野郎どもに囲まれて休息するよりも、こっちの方がよほどか疲れが取れます」


「その通りです」


申し訳なさからアメリが謝れば、押し車を押していたブランとカールは爽やかに笑って見せる。


「それにしても、あの王太子もとことんまで人でなしだな。仮にも婚約者であるアメリ様に、こんな仕事をさせるなんて」


「ブラン、あの男の悪行は今に始まったことじゃない。もしも俺があいつよりも剣の腕が上だったならば、とっくに伐りつけていたのに。悔しいことに、あの悪獅子の腕に敵う者はどこにもいない」


「他人に顔も見せられない醜男のくせにな。顔面勝負なら、勝てるのに」


「ははは、ブラン。お前、面白いこと言うな」


ブランとカールの会話に、アメリの胸がチクリと痛む。


アメリだって、婚約者を冷たくあしらうカイルの気が知れない。けれども、悪口を聞くのはいたたまれなかった。


彼らは知らないのだ。


カイルがか弱き者を労る優しさを隠し持っていることと、朝食を食べる時には決してアメリに悪態を吐かないことを。







「まあ、でも」


カラカラと押し車を押していた赤髪のカールが、遠くロイセン城の正門向こうに目を向けた。


「あの悪魔の天下も、長くは続かないだろう。ハイデル公国が攻めてくるのは、時間の問題だ。妃を失ってから気力のない陛下と、国民から忌み嫌われている王太子の支配するこの国は、衰退の一途を辿っている。悲しいことだが、今のこの国では強大なハイデル公国には太刀打ちできないだろう」
< 48 / 197 >

この作品をシェア

pagetop