獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「お妃さまは、亡くなられたのですか?」


それは、アメリがずっと気になっていたことだった。この城には、カイルの母親である妃の姿がない。


「知らないのですか?」


ブランが、驚いたように言った。


「陛下から一心に寵愛を受けていたお妃さまは、王太子を生んですぐに亡くなったそうです。それ以来陛下は新たな妃を迎えることもなく城にこもりがちで、人が変わったように政務にも力を抜くようになったのです」


ということは、カイルに母親の記憶はないのだろうか。母親の愛情も受けることもなく、亡き妃のことを偲び気力を失った王だけを見て、カイルはこの広い王宮内で育ったのかもしれない。


(どれほど、寂しい想いをしたのかしら)


再び、アメリの胸が痛んだ。幼くして母を亡くしたとはいえ、アメリには母との思い出がたくさんある。母との思い出はアメリにとっての宝物だ。苦しい時や辛い時、アメリは縋るように母の言葉を思い出す。


けれども、カイルはそうではない。彼には、心の拠り所など存在しないのではないだろうか。幼い日々から、そして今に至るまで。


「アメリ様、こちらでよろしいですか?」


「……ええ、ありがとうございます」


カイルのことを考えるあまり、納屋に着いていたことに気づかなかった。カールとブランに手伝ってもらい桑や熊手などを片付けたアメリは、二人とともに道を引き返す。

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