獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
その日の夜のことだった。


夕食を終えたアメリはオフホワイトのネグリジェに着替え、ベッドに腰かけながら小窓の向こうを眺めていた。


漆黒の夜空には、黄金色の満月が輝いている。


満月は苦手だ。母を失った日の地獄のような出来事を、思い出してしまうから。


体の芯から込み上げる震えを抑えるように、アメリは自らの体を抱きしめた。


けれども、か細い腕では染み付いた恐怖心を追い払うことなどできない。


アメリは、どうにか平常心を取り戻そうと必死だった。






(だめよ、こんなところでくじけていたら。強くならなければ……)


心の拠り所である母の形見の指輪を、懸命に指でさする。


母が亡くなった時の悪夢は幾度も見てきたが、これほどの恐怖に襲われるのは久しぶりだ。おそらく、昼間に戦争が差し迫っている現況を聞いたのが原因だろう。


ロイセン王国がハイデル公国の配下になってしまったら、どうなるのだろう?


ハイデル公国の男たちは我が物顔でこの国を仕切り、母のような目に遭う者が数えきれないほど生まれるだろう。


年寄りに女に子供。狙われるのは、おそらく弱いもの達からだ。


非力な母を見下げるように嘲笑っていた男たちの顔が脳裏に蘇り、アメリは吐き気をもよおした。


弱いものは、強いものに力づくで服従させられる。


そんな時代が来てはならない。


そんな君主が、国を治めてはならない。





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