獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
その薄い青色を、母ならば天色か露草色と呼んだだろう。


スカートは幾層ものふんわりとしたレースで彩られ、胸もとには真珠が曲線を描くように縁どられている。


派手ではないが、生地にしろ装飾にしろ、手の込んだ高価なものであることがうかがえる。


広げているだけで、まるで暗い室内が温もりに包まれたかのようだ。


見るものに安らぎをくれるそのドレスが、アメリは一目見て気に入った。





(でも、一体誰からなのかしら)


考えても、思い当たる人がいない。


ウィシュタット家にいた頃、夜会で言葉を交えた男性たちから、幾度か贈り物をもらったことがある。


けれどもアメリが箱を開ける前に、姉たちに問答無用で取り上げられていたので、実際に贈り物を手に取るのは初めてのことだ。


自然と、胸が高鳴る。


シルク素材の生地は、暗がりで見ても見惚れるほどに美しい色をしている。


まるでカイルの瞳の色のようだと思ったところで、アメリは目を見開いた。


そういえば、少し前にカイルに好きな色を聞かれた。


その時、アメリは青と答えたのだ。頭の中では、今目の前にあるドレスのような色を思い描いていた。






「まさか、カイル殿下が……?」


呆然と呟く。胸が、トクトクと鼓動を早めていた。


けれども、アメリはすぐに考えを改めた。


ほんの少し心の繋がりを感じ始めてはいるが、カイルはカイルだ。


あの素っ気ない王太子が、アメリに贈り物をすることなどあり得ない。


ドレスが青なのは、ただの偶然の一致だろう。






「何を期待していたのかしら」


アメリは自嘲気味に笑うと、ドレスを丁寧に箱に戻した。


明日あの侍女をつかまえて、送り主について詳しく聞こう。そんなことを思いながら、蝋燭の火を消し布団に入る。


そして自分を不安にさせる満月が視界に入らないよう、窓に背を向けて目を閉じた。





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