獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
断固として弱音を吐こうとしないアメリを、ヴァンはもの言いたげな顔で見つめていた。
だが、やがて諦めたように長い息を吐く。
「まあいい。あなたがそう言うのなら、俺はどこまでもお供しましょう」
甘いマスクに、蠱惑的な笑みを浮かべるヴァン。その瞳には確かな温もりがあった。
男性的な色気のある所作と容貌から、ヴァンはいつも女たちの熱い眼差しを浴びている。ウィシュタット家でも、侍女たちだけでなく、アメリの姉たちの視線をも虜にしていた。
けれども同時に、爵位を剥奪された曰く付きの家系の出とあって、アメリと同じく蔑みの対象となっていた。だから、婚約者として城に赴くアメリの付き添いを任されたのだろう。
「悪魔だか悪獅子だか知らないが、あなたが傷つくようなことがあれば、王太子と言えども俺は容赦はしない」
微笑を浮かべてはいるが、ヴァンのその口調には、真摯な響きがあった。
(彼がいれば心強いわ)
強がってはいるが、悪名高い王太子のもとに行くのは、アメリだって不安だ。けれども兄のように慕うヴァンが近くにいるだけで、その不安が幾分か薄まるのだった。
窓の外を見れば、煉瓦の道の向こうに、いつしか石造りの物々しい要塞城がそびえていた。
幾棟も連なる塔や凸凹とした城壁には陰が差し、先ほどのヴァンの冗談通り、蔦が石壁を這っている。
長い間改装されていない様子から、ロイセン王国の財政難がうかがえた。あの城を見て、この国の明るい未来を想像する人間はまずいないだろう。
だが、やがて諦めたように長い息を吐く。
「まあいい。あなたがそう言うのなら、俺はどこまでもお供しましょう」
甘いマスクに、蠱惑的な笑みを浮かべるヴァン。その瞳には確かな温もりがあった。
男性的な色気のある所作と容貌から、ヴァンはいつも女たちの熱い眼差しを浴びている。ウィシュタット家でも、侍女たちだけでなく、アメリの姉たちの視線をも虜にしていた。
けれども同時に、爵位を剥奪された曰く付きの家系の出とあって、アメリと同じく蔑みの対象となっていた。だから、婚約者として城に赴くアメリの付き添いを任されたのだろう。
「悪魔だか悪獅子だか知らないが、あなたが傷つくようなことがあれば、王太子と言えども俺は容赦はしない」
微笑を浮かべてはいるが、ヴァンのその口調には、真摯な響きがあった。
(彼がいれば心強いわ)
強がってはいるが、悪名高い王太子のもとに行くのは、アメリだって不安だ。けれども兄のように慕うヴァンが近くにいるだけで、その不安が幾分か薄まるのだった。
窓の外を見れば、煉瓦の道の向こうに、いつしか石造りの物々しい要塞城がそびえていた。
幾棟も連なる塔や凸凹とした城壁には陰が差し、先ほどのヴァンの冗談通り、蔦が石壁を這っている。
長い間改装されていない様子から、ロイセン王国の財政難がうかがえた。あの城を見て、この国の明るい未来を想像する人間はまずいないだろう。