獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
本当のカイルがどんな人物なのかは、まだ謎に包まれている。


弱きものに手を差し伸べ、僅かではあるがアメリに心を開いてはくれたけれど、横暴で人でなしと囁かれる数々の噂の真相は明らかになっていない。


噂通りの悪魔かもしれないし、そうではないのかも知れない。






けれども、アメリは信じたかった。


金糸雀色の髪を持つこの王太子こそが、最後の希望だということを。


そしてどんなに粗野に扱われようとも、どうしようもなく彼に惹かれる自分の直感を。




幼子のように泣きじゃくるアメリを、カイルは顔を逸らすこともなく見つめていた。


とめどなく溢れる涙のせいで、視界はますます不鮮明になっていく。


アメリの醜態を目にして、カイルはもしかしたら不機嫌な顔をしているのかもしれない。それとも、呆れた顔をしているのかもしれない。そんな考えが脳裏を過ったが、それでもアメリは泣き止むことが出来なかった。


――けれど。






突如伸びて来たカイルの手が、アメリを引き寄せた。


気づけば、アメリはカイルの胸の中にいた。


驚きのあまり、嗚咽が止まる。


「……すまない」


温もりの中耳もとで囁かれたのは、消え入りそうなほどに微かな声だった。


けれども、アメリは確かにその言葉を聞き取った。優しく哀しげな声音が、胸の奥深くに染み入る。



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