獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「もう、泣くな」
柔らかな感触が、涙で濡れた頬に落ちてくる。それがカイルの唇だということに、しばらくしてアメリは気づいた。
悪魔と呼ばれる王太子のキスは、思いもしなかったほどに優しかった。まるで壊れ物を扱うように、そっとアメリの涙を拭っていく。
アメリの体は、すっぽりとカイルの腕の中におさまっている。感じたことがないほどの安堵感とともに襲ってきたのは、鳴りやまない胸の鼓動だった。
体中が、どうしようもなく熱い。
呆然と目を見開いたアメリの視界に、ようやくカイルの顔が飛び込んでくる。
普段は人を刃のように冷たく射抜く天色の瞳は、優しさに満ちていた。
カイルは、哀しげにも、困ったようにも見える顔をしていた。初めて見る彼らしからぬその表情に、アメリの胸の奥がぎゅっと疼く。
「カイル様……」
気づけば手を伸ばし、アメリもカイルの頬に触れていた。熱いまなざしを、洗練された彫刻のように整った彼の顔に注ぐ。
(私も、カイル様に安らぎをあげたい――)
けれども、どういうわけかそこでカイルはピタリと体の動きを止めた。
それから、みるみる目を見開く。
優しさに満ちていた瞳が、再び凍り付いていくのをアメリは感じた。
すぐに冷たい眼差しに戻ると、カイルはアメリから体を離し顔を背ける。