獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する

夜のロイセン城は、怖いほどに静まり返っている。


回廊を歩み居館に辿り着いたカイルは、自室へと続く階段の前で立ち止まり片手で頭を抱えた。


「どうして、俺はあんなことを……」





アメリの温もりを知ってから、カイルはおかしくなっていた。


――『あなたを、許します』


あの全てを包み込むような声が、耳の奥から離れない。


カイルがアメリを襲おうとした翌日、中庭でアメリに抱きしめられた時、まるで心の奥を塞いでいた何かが外れたように見える世界が変わった。


女というものはこんなにも柔らかいものなのかと、胸が高鳴った。いつまでも身を委ねていたくなる、中毒性のある柔らかさだった。


いや、違う。カイルは、女の柔らかさを知っていた。


身分を偽り町に出向いた時、幾度も女たちに言い寄られベタベタと触れられたことがある。その時の女たちの柔らかさは、カイルに伐りつけたくなるほどの不快感しかもたらさなかった。


あの女の――アメリの柔らかさは特別なのだ。







気づけば、アメリのことを考えることが増えていた。彼女の笑顔が見たいと思うようになっていた。


ドレスを贈ったのは衝動からで、すぐに後悔した。だから、ドレスの受注と受け渡しに携わった者には、アメリに贈り主を明かしたら殺すと脅してある。


それなのに、彼女の笑顔が他の男に向けられているのを見ると、たまらなく苛立った。


抑えたいのに抑えの効かない感情に、カイルは悩まされ続けていた。


今宵中庭にいたのも、彼女を想い眠れぬ頭を冷やすためだ。


それなのに、あろうことか偶然会った彼女の頬にキスまでしてしまった。


彼女が泣く姿を見ていたら、胸が苦しくて居ても立ってもいられなくなったからだ。


衝動的な自分の行動に、カイルは後悔ばかりしている。
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