獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
自室に入ると、カイルは天蓋付きのベッドに身を投げた。


アメリのことを考えまいとしていても、彼女の泣き顔が頭から離れない。


アーチ窓の向こうを見やれば、廃れ行く王国の上に輝く満月が見えた。






アメリは、満月が嫌いだと言った。


どんなにひどい扱いを受け冷たくされても毅然としているアメリは、強く美しかった。


自分などが決して触れてはいけない、尊い存在だと思っている。


その彼女が、満月が嫌いだと言って幼子のように泣く姿が、カイルの心を苦しめる。






カイルは、壁に備え付けられた書架に視線を移した。


兵法に地理学、歴史学、軍事学。幼い頃から貪るように読んだありとあらゆる本が、床から天井までぎっしりと敷き詰まっている。


何千冊という本の内容の全て、そして世界の地理や思想は、カイルの頭に完全にインプットされていた。


子供の頃から人を避け、四六時中剣か書物とばかり向き合ってきたから当然だ。







政務をおざなりにしている父は、国王の手腕ではない。


この国に未来はない――今や、誰もがそう思っているだろう。


運命には、贖えない。


カイルも、悪魔の王太子として処刑される自身の未来を、幾度も思い描いたことがある。


自分の幸せにも、他人の幸せにも興味はない。


どうでもいいことだ。


(でも……)


目を閉じると、彼女の温もりが体に蘇った。


(彼女を、もう泣かせたくはない)


今のカイルを突き動かすのは、その感情だけだった。


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