獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「正気ですか? 国境越えは、今までに二度も失敗している。それでも懲りずに、再び遂行しようというのですか?」
「そうだ。兵の数さえ増やすことが出来れば、今度こそいける」
忌々しそうに語る王に、カイルの苛立ちが募る。
「愚かだ……」
思わず呟けば、幹部たちは一斉にカイルに非難の眼差しを向けた。
「陛下に反論なさるつもりですか? いくら、殿下と言えども聞き捨てならない」
「兵の数で、ハイデル公国に対抗しようとするのには無理があります。それに、ハイデル公国には同盟国も多い。孤立している我が国が、真っ向から闘って勝てる相手ではない」
鋭い睨みとともに、カイルはピシャリと老人の牽制を跳ねのける。
「では聞こう。お前は、どうした方が良いと思うのだ?」
上座から、王が挑戦的な眼差しをカイルに投げかけた。まるで汚物を見るような、蔑んだ眼差しだ。とてもではないが、我が子を見る目ではない。
「私なら、まずはクロスフィールド王国に駐在しているハイデル公国の軍隊を叩きます」
クロスフィールドだと? と、室内にざわめきが起こる。東に位置するクロスフィールド王国は弱小国で、ハイデル公国からは距離がある。
「クロスフィールドは、ハイデル公国の貿易の要です。クロスフィールドからの物資の補給がなければ、ハイデル公国は充分な軍事力を保つことが出来ない。内側から弱らせて、一気に叩くのです」
「フン、馬鹿馬鹿しい。そんな回りくどいことが出来るか」
カイルの提案に、あちらこちらから馬鹿にするような笑い声が聴こえた。
この元老院は腐っている、とカイルは改めて感じた。何百年も続くこの国の元老院制度は、世襲制だ。世の中を知ろうともせず、ぬくぬくとぬるま湯につかり続けてきた彼らは、自分の社会的地位を守ることだけに手一杯で何一つ分かっていない。