獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
第四章 この世の全てがあなたの敵でも
◇
カイルの言ったことは、嘘ではなかった。
カイルに避けられ続けてもアメリはめげずにロイセン城に居座ったが、あの満月の夜から数えて五日目の朝、ついにカイルからの要請でウィシュタット家から迎えが来た。
カイルからの、一方的な婚約解消というわけである。
「城を逃げ出すこともなく、こんなにも長い間おられた婚約者様はあなたが初めてでしたのに、まさかカイル殿下の方から婚約を解消されるなど予想しておりませんでした。残念でなりません……」
別れ際に挨拶をくれたのは、レイモンド司祭ただ一人だった。五人目の婚約解消とあっては、王との別れの謁見もないらしい。無論、アメリを避け続けているカイルが会いに来てくれるはずもない。
出発直前。馬車着き場で、いつまでも名残惜しげにロイセン城を見上げるアメリに、荷物を積み終えたヴァンが声をかけてきた。
「アメリ様、長居は無用だ。早く行きましょう」
「ええ……」
後ろ髪を引かれる思いで、アメリは馬車に乗り込もうとする。
その時だった。城の方から、何かを叫びながら大勢の人影が駆けて来る。
「アメリ様~!」
「ヴァンさん!」
それは、この城の騎士達だった。以前アメリに手を貸してくれたカールとブランだけでなく、少年騎士団までいる。
「アメリ様、どうかご達者で!」
「ヴァンさん、あなたがいないと寂しくなります……。侍女たちも、朝から泣きっぱなしだ」
一ヶ月に満たない間だったが、騎士達は旧知の友人との別れを惜しむように、アメリとヴァンの手を取り順々に別れの言葉を述べていく。
気づけば、アメリも目に涙を浮かべていた。
この城で働く人々が、アメリは好きだった。短い間だったが、ウィシュタット家にいた時よりもずっと心が安らぐことが出来た。まるで、家族のようにすら感じている。
「ありがとう、みんな……」
涙ながらに一人一人の手をしっかりと握り、アメリは想いの丈を伝えた。
カイルの言ったことは、嘘ではなかった。
カイルに避けられ続けてもアメリはめげずにロイセン城に居座ったが、あの満月の夜から数えて五日目の朝、ついにカイルからの要請でウィシュタット家から迎えが来た。
カイルからの、一方的な婚約解消というわけである。
「城を逃げ出すこともなく、こんなにも長い間おられた婚約者様はあなたが初めてでしたのに、まさかカイル殿下の方から婚約を解消されるなど予想しておりませんでした。残念でなりません……」
別れ際に挨拶をくれたのは、レイモンド司祭ただ一人だった。五人目の婚約解消とあっては、王との別れの謁見もないらしい。無論、アメリを避け続けているカイルが会いに来てくれるはずもない。
出発直前。馬車着き場で、いつまでも名残惜しげにロイセン城を見上げるアメリに、荷物を積み終えたヴァンが声をかけてきた。
「アメリ様、長居は無用だ。早く行きましょう」
「ええ……」
後ろ髪を引かれる思いで、アメリは馬車に乗り込もうとする。
その時だった。城の方から、何かを叫びながら大勢の人影が駆けて来る。
「アメリ様~!」
「ヴァンさん!」
それは、この城の騎士達だった。以前アメリに手を貸してくれたカールとブランだけでなく、少年騎士団までいる。
「アメリ様、どうかご達者で!」
「ヴァンさん、あなたがいないと寂しくなります……。侍女たちも、朝から泣きっぱなしだ」
一ヶ月に満たない間だったが、騎士達は旧知の友人との別れを惜しむように、アメリとヴァンの手を取り順々に別れの言葉を述べていく。
気づけば、アメリも目に涙を浮かべていた。
この城で働く人々が、アメリは好きだった。短い間だったが、ウィシュタット家にいた時よりもずっと心が安らぐことが出来た。まるで、家族のようにすら感じている。
「ありがとう、みんな……」
涙ながらに一人一人の手をしっかりと握り、アメリは想いの丈を伝えた。