獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
二人は、年季の入った大聖堂を中心とした広場に降り立つ。
広場の隅では町女たちが立ち話に興じており、小さな噴水の周りを犬と子供が笑いながら駆けまわっている。蹄の音を響かせながらやってきた辻馬車が噴水の前で停まり、貴族らしき男を降ろしていた。
馬車の中にいる時と外にいる時とでは、街の雰囲気が違って見える。一たび降り立てば、いくら寂れた王都でも、ここに生活している人々の息を肌で感じる。
アメリとヴァンは、滞在する宿を求めてリエーヌの街を歩き出した。
「ところでアメリ様。確かめたいこととは、どんなことですか?」
しばらくすると、ヴァンが聞いてきた。ここまでついて来てくれたヴァンに黙っているわけにもいかず、アメリは素直に答えることにする。
「カイル殿下に関する、噂についてよ」
「ああ。あの、どこぞの男爵を殴っただとか、町民から金を巻き上げただとか、酒場で大暴れしただとかいう噂のことですね。まあ、城でのあの男の様子を見る限り、納得と言えば納得ですが……」
うんざりした顔で答えるヴァンは、その噂についてアメリよりも詳しそうだった。
「もしかすると、アメリ様はあの噂が嘘なのではと疑っておられるのですか?」
アメリを見つめるブラウンの瞳は穏やかさを秘めてはいるが、さすがの洞察力だ。
アメリは、ヴァンがカイルに良い印象を持っていないことは知っている。
城に来て間もなくの頃、痩せたアメリを見て、ヴァンはカイルに対する怒りを露わにしていた。アレクを虐げるカイルに盾ついたアメリを庇ってくれたのも、ヴァンだ。