獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
リエーヌの中心部に位置する大広場は、シンボルであるシルビエ大聖堂にちなんで、シルビエ広場というらしい。
広場を中心に伸びた三本の煉瓦道は、それぞれが商業通り、住宅通り、工場通りに分かれていた。
商業通りの中腹に、ヴァンは居心地の良さそうな宿屋を見つけてくれた。隣には、酒場も併設されている。
くるくるとうねった赤髪が印象的な恰幅の良い女主人は、はじめは素性の知れない二人の宿泊に難色を示した。
だが、毎夜酒場を手伝うというヴァンの申し出に「ふうん。こんな色男がいたら、女性客が増えるかもしれない。いいよ、いくらでもいな」と表情を緩めてくれた。
ウィシュタット家から持ってきた支度金には全く手をつけていないので、当面の間資金には困らないだろう。
六部屋あるうちの二部屋に各々荷物を運ぶと、二人はさっそく人々の話を聞くためにリエーヌの街に繰り出した。
帽子屋、雑貨屋、パン屋。活気はないがところどころ店は開いていて、往来にはまばらに人が行き交っている。
(ああ、懐かしい。町の匂いだわ)
パン屋から漂うパンの焼ける匂いに、酒屋から漂う葡萄酒の匂い。アメリは、ウィシュタット家に行く前に母と共に暮らしていた小さな町を思い出す。
決して派手な暮らしではなかったが、町の人は皆親切で、あの頃は毎日が輝いていた。ウィシュタット家のお屋敷やロイセン城よりも、この町が一番馴染めそうだとアメリは感じる。
最初に話しかけたのは、顔を炭で汚した鍛冶屋の男だった。
「何、カイル王太子のことを教えてくれって? 教えるも何も、噂に聞いていないのかい? あんな人でなしは、見たことがない。この間など肩が触れたという理由だけで、通りすがりの男に殴りかかっていたんだからな」
続いて、店先に腰かけパイプの煙をくゆらせていた、古本屋の主人。
「あれはひどい。あんな男が王になったら、この国も終わりだよ。わしなんかわけの分からない税の名前を出されて、金をしこたま取られたんだ。町に来たかと思えば、町人から金を巻き上げるか暴力をふるうかの繰り返しさ」
広場を中心に伸びた三本の煉瓦道は、それぞれが商業通り、住宅通り、工場通りに分かれていた。
商業通りの中腹に、ヴァンは居心地の良さそうな宿屋を見つけてくれた。隣には、酒場も併設されている。
くるくるとうねった赤髪が印象的な恰幅の良い女主人は、はじめは素性の知れない二人の宿泊に難色を示した。
だが、毎夜酒場を手伝うというヴァンの申し出に「ふうん。こんな色男がいたら、女性客が増えるかもしれない。いいよ、いくらでもいな」と表情を緩めてくれた。
ウィシュタット家から持ってきた支度金には全く手をつけていないので、当面の間資金には困らないだろう。
六部屋あるうちの二部屋に各々荷物を運ぶと、二人はさっそく人々の話を聞くためにリエーヌの街に繰り出した。
帽子屋、雑貨屋、パン屋。活気はないがところどころ店は開いていて、往来にはまばらに人が行き交っている。
(ああ、懐かしい。町の匂いだわ)
パン屋から漂うパンの焼ける匂いに、酒屋から漂う葡萄酒の匂い。アメリは、ウィシュタット家に行く前に母と共に暮らしていた小さな町を思い出す。
決して派手な暮らしではなかったが、町の人は皆親切で、あの頃は毎日が輝いていた。ウィシュタット家のお屋敷やロイセン城よりも、この町が一番馴染めそうだとアメリは感じる。
最初に話しかけたのは、顔を炭で汚した鍛冶屋の男だった。
「何、カイル王太子のことを教えてくれって? 教えるも何も、噂に聞いていないのかい? あんな人でなしは、見たことがない。この間など肩が触れたという理由だけで、通りすがりの男に殴りかかっていたんだからな」
続いて、店先に腰かけパイプの煙をくゆらせていた、古本屋の主人。
「あれはひどい。あんな男が王になったら、この国も終わりだよ。わしなんかわけの分からない税の名前を出されて、金をしこたま取られたんだ。町に来たかと思えば、町人から金を巻き上げるか暴力をふるうかの繰り返しさ」