獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
屈強な鉄の門をくぐると、城に向けて飾り気のない石畳の通路が伸びていた。石畳の両側には緑の芝生が広がってはいるが、花一つなくひどく味気ない。


あちらこちらで鎧を身に付けた騎士達が訓練をしており、剣のぶつかる音と雄々しい掛け声が、空気を緊迫させている。


「お待ちしておりました。こちらでございます」


馬車着き場で従者に出迎えられたが、淡々とした態度で、歓迎されている様子は全くなかった。


矢を射るためのくり抜き窓の連なる回廊を歩み、王の間へと案内される。広さはあるが、僅かな窓しかない薄暗い部屋だった。


背面に赤いカーテンの吊るされた玉座の前で、「しばしお待ちを」と告げると、アメリとヴァンを残して従者は去っていく。






「いよいよ、悪名高き王太子との対面ですね」


アメリの緊張をほぐそうとしているのか、ヴァンがどこかこの状況を楽しんでいるような声を出した。


「噂によると、随分な醜男とのことだが」


「醜男……?」


アメリは、目を瞬いた。そのような噂は、初めて聞くからだ。


「聞いていませんか? 太った牛に似てるだの病気の馬に似てるだの、ひどい噂ばかりですよ」


「まあ……」


王太子の容貌などには全く興味のなかったアメリだが、そこまでのひどい噂を聞くと、どんな顔なのか逆に興味が湧く。


病気の馬よりは、太った牛の方が好みかもしれないわ。そんなことを考えていると、背後で扉が開かれた。


「ロイセン王とカイル王太子のお出ましである。頭を下げよ」


はっと我に返ったアメリは、慌てて床に膝をつき顔を伏せる。数人の足音が、アメリの横をすり抜け玉座へと向かう。



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