獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
幾ら話しかけても尽きないほどに、カイルの悪い噂は街に溢れていた。


「こりゃまいったな、想像以上の嫌われ者だ」


ヴァンは苦笑いを浮かべ、アメリは心を痛める。


確かに、城でのカイルも暴力的だった。他人に暴言を吐くことは日常茶飯事だし、暴言を吐いていないことの方が珍しかったくらいだ。


召使いたちの城での悪評と町での悪行が合わさり、ロイセン王国の獅子の紋章を風刺して悪獅子などという呼ばれ方をするようになったのも頷ける。


けれどもアメリは、どんなにカイルの悪い噂を耳にしても、納得がいかなかった。


(……この違和感はなんなの?)


ただの、直感に過ぎない。けれども、何かが腑に落ちない。






いつしか二人は、商業通りの最果てに来ていた。


そこには、商業通り全体を見渡すように大きな邸が建てられていた。金の施された鉄柵の塀の向こうには見事な庭園が広がり、藍色の屋根の瀟洒な邸がまるで城のように堂々と立ちはだかっている。


「ここは、どなたのお屋敷なのかしら……?」


さすがに規模は劣るが、見栄えではロイセン城よりも豪華に思えた。


「さきほど聞いた、ドーソン男爵の邸では? この町髄一の権力者だと聞きましたから。どうやらカイル殿下は、その昔ドーソン男爵にも暴力をふるったことがあるらしいですよ」


アメリは、唇を噛みしめる。


本当なのだろうかという想いと、あり得なくはないという想いが、心の中で葛藤している。






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