獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
気づけば、空が茜色に染まっていた。


遠くそびえるロイセン城を、アメリは切なげに眺める。朱色の光に照らされたあの石造りの要塞城の中で、カイルは今何を想っているのだろう。


「今日のところは、もう戻りましょうか」


「そうね、そうするわ……」


ヴァンの声に、アメリが無理やりに笑顔を作った時のことだった。


懐かしい、涙がこぼれそうになるほどに懐かしい匂いが、初夏の夕風に乗ってアメリの鼻先に届いたのだ。






「この匂い……。もしかして……」


匂いの元をたどるように、アメリは歩き出す。


そしてドーソン邸のさらに向こう、商業通りの外れに、煙突から白い煙の出ている小さな家屋を見つけた。


「アメリ様、どうかしましたか?」


不審そうにしながらも、ヴァンは惹きつけられるように歩くアメリについていく。


煙の出ている小さな煉瓦造りの家屋に辿り着いたアメリは、開けっ放しのドアの向こうを見て、嬉しそうに微笑んだ。


「やっぱり……、ガラスだわ」


ガラスは、珪砂と呼ばれる砂と石灰石を、高温の窯で煮詰めて作られる。その時の独特な匂いが、アメリはこの世のどんな香りよりも好きだった。


その家はガラス工房らしく、入口付近には色とりどりのステンドグラスが並べられていた。そして奥では、窯に乗せた大きな鉄鍋を、棒で懸命にかき混ぜている老人がいる。
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