獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
(やっぱり、私は嫌われているのだわ……)


ドレスの贈り主がカイルだったと知っただけで、浮かれていた自分が恥ずかしくなる。アメリが城を出てから、もう二十日近くが経とうとしている。例えあの時は少しだけアメリに好意を寄せかけていたとしても、とっくに冷めているに違いない。


虚しくなったアメリは、カウンターを離れ仕事に徹することにした。


フィリックスとして町の人々を援助する一方で、同時に悪行も働いている彼の真意を知りたい。


でも、聞くのが怖い。アメリを拒絶する、あの瞳を直視できない。カイルに冷たくされることなど日常茶飯事だったはずなのに、いつからこんなに弱くなってしまったのだろうと悲しくなる。






夜は深まり、酒場は葡萄酒の香りと人々の笑い声に満ちていく。


アメリとは関わりたくない様子なのに、カイルはこの店を離れようとはしなかった。きっと、フィリックスとしての彼を慕っている人々が、しきりに彼のもとへ挨拶に来るからだろう。


「アメリさん」


沈んだ気持ちのまませわしなく動き回っていると、ふいに名前を呼ばれた。戸口近くのテーブル席に、ステンドグラスの取り付けを手伝ってくれた男達が座ってにこにこと手を振っている。にわかに、アメリの表情が明るくなった。


「皆さん、いつからいらっしゃってたの?」


「少し前からだよ。アメリさんがいるんじゃないかって期待してね。そうだ、また俺達の力が必要な時は呼んでくれよな。アメリさんのためなら、いつでも行くから」


「ありがとう、皆さん。助かるわ」


アメリが微笑みその場を去ろうとすると、「ちょっと待ってくれ」と背中に声がかかった。


振り返れば、酒が入って陽気な男たちがにやついた笑みを浮かべている。


「どうしたの? 注文?」


男たちは、真ん中にいる若い男を「ほら、さっさと誘えよ」と小突いている。短く刈った黒髪に日焼けしたたくましい体つきをした彼は、確か町の外れにある葡萄農園の息子だ。


酒のせいか顔の赤い男は、頭の後ろを掻きながら「あの、アメリさん」と遠慮がちに話しかけてきた。


「はい?」


「今度、良かったら一緒に宵祭りに――」




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