獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
―――ダンッ!!!


葡萄農園の息子の台詞は、言い終わらないうちに問答無用で断ち切られた。突如振ってきた短剣が、彼の顔面すれすれのところを勢いよく通り、音を響かせテーブルに突き刺さったからだ。


「うわぁっ!」


驚いた葡萄農園が、椅子を倒しながら立ち上がる。他の男たちも、一同に言葉を失っていた。


「……え? フィ、フィリックス様……?」


短剣を握り締めている手を目で辿った葡萄農園が、状況の呑み込めていない声を出す。


いつの間にか葡萄農園の隣にはフードを被ったままのフィリックス――もといカイルが立ち、殺伐とした眼光を彼に注いでいた。





今の今まで活気に満ちていた酒場が、シン、と静まり返る。皆の視線が、アメリのいるテーブルに集中していた。


カイルが、立ち尽くしているアメリの方へとゆっくり顔を向ける。呆気に取られているアメリと、怒り顔のカイルの視線がぶつかった。


「来い」


気づけばアメリはカイルに腕を取られ、引っ張られるようにして酒場の外へと出ていた。


日が落ち闇に包まれたリエーヌの街を、家屋から漏れる明かりだけを頼りに、アメリの腕を引いたカイルはぐいぐいと進んで行く。アメリがどんなに頑張っても振り払えないほどの、強い力だった。


「……どこに行かれるのですかっ!?」


問いかけても、カイルはアメリを振り返ろうともしない。


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