獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
アメリを見つめる天色の瞳は、まるで鋭利な刃物のようだった。


アメリの身も心も、今にも伐りつけてしまいそうなほどに冷たい。


けれども、アメリは物おじしなかった。


事情はつかめないが、身分を偽り町の人々を助けていた時点で、彼の本性が分かったからだ。





「本当のあなたは、弱き者の味方で、優しくて、慈悲深い」


アメリの頬を流れる涙を拭ったキスの感触を、今でもはっきり覚えている。優しくて柔らかくて、溶けてしまいそうなほどに温かかった。


「それなのに、どうして本当の自分を隠そうとするのですか?」


カイルは、唇を引き結んだ。感情を失ったようにも見える鋭い瞳は、アメリには泣いているように感じた。


クス、とカイルがまた笑う。アメリが何度も見たことのある、この世の全てを卑下するような嫌な笑い方だ。


「本当の自分? 本当の俺は、この国に災いを呼ぶ存在だ」


「それは、あなたがご自分で思い込んでいるだけです」


「そうではない。生まれついて決まっていたことだ」


言いながらカイルは、自分の前髪を掻き上げる。


「この髪色が何よりの証拠だ」


「……髪色が?」


「”黄金の王太子生まれし時、その血とともに、王朝は滅びの道を歩みたもうけり”。何百年も前からこの国に伝わる予言だ。この国に金色の髪をした世継ぎが生まれた時、この国は亡びる。そういう意味らしい。俺が生まれた時、城の者は恐怖に脅え、母親は自ら命を絶った」

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