獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
あまりの事の残酷さに、アメリの体が戦慄いた。震える口もとを両手で覆い、込み上げる激情を抑える。


(なんてこと……)


どうしてカイルは鎧兜を頑なに外そうとしなかったのか。どうして国王がカイルにあんなに冷たいのか。


その答えが、するすると紐解くように分かった。あとに残ったのは、呼吸すらままならないほどの胸の痛みだった。


「俺は、この国に災いを呼ぶ存在だ」


まるで当たり前のことのように、カイルは繰り返した。


(でも、心の中では、自分でも気づかないところでこの国を救いたいと思っていらっしゃるのだわ……)


それがきっと、カイルのアンバランスさの原因だ。本来あるべき災い主としての自分と、胸の奥に芽生えたこの国の平和を望む自分。両極端な二つの自分に悩まされ自分を見失ったカイルは、長い間一人孤独に戦ってきたのだろう。


「分かったなら、もう俺に関わるな」


吐き捨てるように言うと、カイルはアメリから顔を逸らした。






そんなカイルに歩み寄ると、アメリは脇からそっと彼の手を取った。


間近で、驚いたようにカイルがアメリを見る。


「カイル様」


泣きたくなるのを必死にこらえて、アメリは微笑んだ。


やはり彼は、ここで朽ち果てていい人間ではない。


屈強な鎧で心を覆っている彼に、道しるべを作ってあげなければいけない。


自分では、力不足かもしれない。けれども、やらずにはいられない。


どうしようもなく、胸が苦しくなるほどに、今目の前にいるこの人のことを愛しく思うから。


「……一緒に、来ていただけますか?」









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