能ある狼は牙を隠す


三十分以内にこの五題解いて。

図書室に着いてから、狼谷くんはそれしか言葉を発していない。
目の前の課題に集中しようと努めたけれど、どうしても彼の様子が気になってしまう。

それに何だか、物凄く見られている気がする。

やりづらさを覚えていると、おもむろに狼谷くんが席を立った。
少しだけほっとして肩の力が抜ける。

三問目に取り掛かろうとしたところでつと視線を上げると、狼谷くんのスマホが机の上に無防備に置かれていた。
瞬間、その画面がパッと明るくなる。


『誕生日おめでと! 今度また遊んで〜』


メッセージがポップアップで表示された。
反射的に目を逸らしたものの、見てしまったことには変わりない。

でも、それよりも。


「狼谷くん、今日誕生日だったんだ……」


知らないのは当然といえば当然だけれど、居心地の悪さを覚えてしまう。

何より申し訳ないのは、そんな大切な日に私の勉強に付き合ってもらっていることだ。
もしかしたらこの後に予定があったりするんだろうか。だとしたら早く終わらせた方がいいんじゃないだろうか。

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