能ある狼は牙を隠す
じ、と私の瞳の奥を覗き込むような狼谷くんに、思わず身を引いてしまう。
ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうな。
彼はたまに、そんな目をする。
「か、狼谷くん、あのね」
「ん?」
「せっかく見てもらってるのに申し訳ないんだけど、今日はちょっと早く帰ってもいいかな……」
目の前の小さなブラックホールから逃れるように、私は早口でそう述べた。
「用事?」
「あ、うん、そうなんだよね……」
「……そっか。分かった」
僅かに思案するような表情を見せた後、狼谷くんは落ち着いた声色で了承する。
私は急いで問題を終わらせて、狼谷くんに採点をお願いした。
「羊ちゃん、ここ。これも。展開間違ってる」
「え!」
最後の方、ちょっとやっつけで終わらせちゃったもんなあ……反省。
早く終わらせたいという思いとは相反して、結局懇切丁寧に解説してもらうことになってしまった。
「あ、時間大丈夫?」
「ええと……そろそろ、かな」
「じゃあここで終わろうか」
言いつつ狼谷くんが片付け始める。
罪悪感を抱きながらも、私も教科書をしまって帰り支度を始めた。
「もう少しで模試だけど、大丈夫そう?」