能ある狼は牙を隠す
学校を出て歩きながら、狼谷くんがそう問いかけてきた。
私は拳を握って声を張る。
「狼谷くんのおかげで英語の長文はだいぶましになったよ! 数学はまだ危ないけど」
「それは良かった」
ちょうどバス停に来たところで、狼谷くんは立ち止まって軽く手を挙げた。
「じゃあね。気を付けて」
「あ、狼谷くんは自転車?」
「ううん。歩きだよ。家近いから」
そんな会話の往復をしていると、信号を通過してバスが来た。
彼の方に視線を投げる。
「ほら、早く乗りな。じゃあね」
手を振った彼が背中を向けた。一歩、二歩、遠ざかっていく。
これでいいんだろうか。釈然としないまま、一日が終わってしまっても。
――ううん。やっぱりだめだ!
「狼谷くん!」
地面を蹴った。
夕方の空気を肺いっぱいに吸って、その背中を追いかける。
「狼谷くん! 待って!」
「……羊ちゃん?」
振り返った彼に安堵して、私は立ち止まる。
後ろでプシュー、とバスの発車する音が聞こえた。
「どうし――」
「お誕生日おめでとう!」