能ある狼は牙を隠す
ここ一週間で最も大きい声を出したかもしれない。
勢い任せに口に出したら、そこからはどうにでもなれ、という気持ちだった。
「ごめん! さっき狼谷くんのスマホ見ちゃって……誕生日だって分かったんだけど、言ったら変に思われちゃうから言えなくて……」
正解なんて分からないし、考える間もなく追いかけてしまって。
でもきっと、言わないと後悔する気がした。
「勝手に見てごめん! でも、やっぱりおめでとうだけは伝えたかった!」
一気に吐き出して、恐る恐る顔を上げる。
狼谷くんは分かりやすく驚いた顔をして、それから口を開いた。
「……まさか、それだけを言いに追いかけてきたの?」
「え? う、うん……」
「バス逃してまで? 用事あるのに?」
「あっ、用事はないよ! 大丈夫!」
私の答えに、狼谷くんはますます不思議そうに首を傾げる。
「えっと、狼谷くん、他の人との約束とかあるのかな? と思って。遅くまで私に付き合ってもらうの悪いから……」
「それでわざわざ嘘ついたの?」
「ごめんね……」