能ある狼は牙を隠す
*
試練だ。これは神様が私に与えた試練なんだ。
「最っ低! 本命他にいるってこと!?」
週に一度の委員会。
今週もそれは淡々とやってきて、何事もなく終えたはずだった。
どうやら先生に提出しに行くのはどちらか一人でいいみたいで、それならと私が引き受けた。
職員室を出た後、教室にお弁当箱を忘れてきたと気が付いて、まさに今教室のドアの前にいる。
「本命? いないよそんなの」
そう答えるのは紛れもなく狼谷くんの声だ。
中で女の子と口論になっているようで、非常に入りづらい空気。
いや、入るべきじゃない。確実に入るべきじゃない。
「はあ? 何それ。じゃあ全部遊びだったっていうの?」
「だから、そうだって言ってんじゃん」
その瞬間、乾いた音が聞こえた。
ああ、痛そう――こっちまで顔をしかめてしまう。
足音がして、慌ててドアの前から離れる。
「馬鹿! クズ! 最低!」
女の子はそう吐き捨てると、勢い良くドアを開けて教室を出て行った。
その後ろ姿を見送ってから、そろりと中を覗く。
狼谷くんは机の上に腰かけ、頬を押さえていた。
「……別に、隠れなくてもいいよ」
試練だ。これは神様が私に与えた試練なんだ。
「最っ低! 本命他にいるってこと!?」
週に一度の委員会。
今週もそれは淡々とやってきて、何事もなく終えたはずだった。
どうやら先生に提出しに行くのはどちらか一人でいいみたいで、それならと私が引き受けた。
職員室を出た後、教室にお弁当箱を忘れてきたと気が付いて、まさに今教室のドアの前にいる。
「本命? いないよそんなの」
そう答えるのは紛れもなく狼谷くんの声だ。
中で女の子と口論になっているようで、非常に入りづらい空気。
いや、入るべきじゃない。確実に入るべきじゃない。
「はあ? 何それ。じゃあ全部遊びだったっていうの?」
「だから、そうだって言ってんじゃん」
その瞬間、乾いた音が聞こえた。
ああ、痛そう――こっちまで顔をしかめてしまう。
足音がして、慌ててドアの前から離れる。
「馬鹿! クズ! 最低!」
女の子はそう吐き捨てると、勢い良くドアを開けて教室を出て行った。
その後ろ姿を見送ってから、そろりと中を覗く。
狼谷くんは机の上に腰かけ、頬を押さえていた。
「……別に、隠れなくてもいいよ」