能ある狼は牙を隠す
羊ちゃんだけは俺のことを本当の意味で見てくれている気がして、だから我慢ならなかった。
なんてことないように話すくせに、それが的を得ているから、縋りたくなった。
『俺のこと、ちゃんと見てくれる?』
きっと彼女にとって、俺はクラスメートの一人でしかなくて。
分かっていても、その瞳に映していて欲しいと柄にもなく願ってしまった。
『これからも、ずっと……狼谷くんのこと、見てるよ』
目に涙を溜めて、顔を真っ赤に染め上げて。
確かに彼女自身の声で言わせたその言葉に、心臓の奥が震えた。
その瞬間に全身が熱くなって、手しか触れていないのに酷く興奮したのを今でも思い出す。
泣き顔に欲情する性癖はなかったはずだ。自分はおかしくなったんだろうか。
こんなクズな俺のことを当たり前のように受け止めてしまうくせに、あとちょっとのところで逃げていってしまうのだ。逃げられたら困る。
だからついつい約束をさせたくなる。彼女自身の言葉で確実に誓って欲しい。
「あの、狼谷くん、ほんとにごめんね……」