能ある狼は牙を隠す
彼女は珍しくテンションが高い。
それでいて小声なのは、静かな店内に配慮してだろう。
「ん?」
屈んで耳を寄せると、羊ちゃんは躊躇いなく俺に囁きかけた。
「ここね、キャラメルフラペチーノおすすめだよ。クリームがしゅわってなるよ!」
にこにことあどけない笑顔で一生懸命そう伝えてくる彼女に、意図せず心臓が跳ねる。
どうやら自分は、彼女の笑顔にも弱いらしい。
「狼谷くん?」
黙り込んだ俺を不審に思ったのか、羊ちゃんは目を瞬いた。
「あっ、アレルギーとかある? キャラメルあんまり好きじゃない……?」
「ううん、好きだよ」
本当はいつもここへ来たら頼むものは決まっている。
だけど、彼女の嬉しそうな顔を見るとキャラメルフラペチーノを頼むしかなさそうだ。
「狼谷くん先に座ってていいよ! 私頼んでくるね」
一方的にそう宣言すると、羊ちゃんはカウンターに行ってしまった。
大人しく席を取ることにして、無難にテーブル席に腰を下ろす。
彼女の様子を観察していると、何やら店員と話し込んでいる。
注文だけでそんなに話が弾むだろうか、と訝しみながらも、楽しみに待ってしまっている自分がいた。
「狼谷くん、お待たせ!」