能ある狼は牙を隠す
俺の言葉に、羊ちゃんは「そんなことないよ」と首を振る。
「一年に一回の大事な日だよ。はしゃいだっていいじゃん。狼谷くん、生まれてきてくれてありがとうって、みんなにお祝いしてもらう日なんだから」
ゆったりと、それでいて芯の通った声。
「今日は狼谷くんの日だよ」
ああほら。またそうやって、羊ちゃんは俺がどうでもいいって捨てたものを、綺麗に埃を払って差し出してくる。
俺がいらないって言っても、そうするのが当然みたいに、大事にする。
だから堪らなくなって、我慢ならなくて。
眩しい。羊ちゃんは、あまりにも眩しすぎる。
だけれど、彼女が手を引くままついて行けば、こんな俺でも真っ当な道を歩いていけるような気がしてしまう。
これはだいぶ重症かもしれない。
間違っても彼女だけは傷つけてはいけないし、欲望に任せて手を出すことも許されない。
「羊ちゃん」
「うん?」
「ありがとね」
彼女はずっと、暗く湿っていた俺を照らしてくれる太陽だから。
「へへ、どういたしまして」
羊ちゃんはまた頬を緩めると、その白い頬にえくぼをつくって目を細めた。