能ある狼は牙を隠す
神出鬼没
「狼谷〜! ノートありがとな!」
登校してカナちゃんと談笑していると、霧島くんの元気な声が教室に響いた。
いつものようにホームルーム開始ぎりぎりにやって来た狼谷くんに、待ってましたと言わんばかりの軽快さで霧島くんは駆け寄っていく。
「あ、ここさ、よく分かんなかったから後で教えて欲しいんだけど! いい?」
「ああ……うん」
若干戸惑ったように受け答える狼谷くんに、思わず苦笑してしまう。
彼は大体誰とでもそつなく接しているから、ああいう反応はちょっと新鮮だ。
自分の席に戻った霧島くんは、近くの席の男子と話し始める。
「狼谷と絡んでんの珍しいな」
「おー、あいつ頭いいらしいよ。な、白さん!」
突然呼び掛けられてギクリと固まってしまった。
「あ、うん……頭いいよ、すごく……」
霧島くんはコミュニケーション能力の塊だと思う。
男子も女子も関係なく気軽に挨拶するし、私みたいにノリが良くない人にも普通に会話を振ってくれる。
「へー、そうなんだ。意外」
「お前も教えてもらえば?」
「いや……なんつーか、さすがにハードル高いわ」