能ある狼は牙を隠す
気持ちは分かるなあ、と私は内心頷いた。
狼谷くんはあんまり誰かとはしゃいだり騒いだりするイメージがないし、話し掛けるのには結構勇気がいる。
「そうかぁ? 別に一言『教えて』って言うだけじゃん」
「そりゃお前はそうだろうけど。ていうか、あいつにはあんまり絡みたくないかなー……」
「何でだよ」
いつの間にか真剣に聞き耳を立ててしまっている自分がいた。
霧島くんの問いかけに、答えが返ってくる。
「だってあいつ、いっつも女はべらせてんじゃん。迂闊に関わったら知らない間に恨み買いそうで怖いわ」
色恋沙汰に巻き込まれるのは勘弁、と付け足して、霧島くんの友達は口を閉じた。
噂の影響もあるのかもしれない。狼谷くんが女の子と仲がいいのは事実だ。
でも、本当にそれだけなのに。それ以外は何らみんなと変わりない、普通の男子高校生だ。
こうやって遠ざけられてしまうのは悲しいな、と図々しくもそう思った。
だって、昨日一緒にカフェで話した狼谷くんは、本当にただの男の子だったんだから。
『じゃあちょっと付き合って?』