能ある狼は牙を隠す
そんなことを言って慌ただしく走っていった二人に、ますます不思議な気持ちになった。
頑張ってって、何をだろう。
まあいいや。
とりあえず狼谷くんに対する誤解は解けたみたいだし、早く飲み物を買って戻らないと。
そう思い直して階段を降り始めた刹那、背後から声がかかった。
「羊ちゃん」
「えっ、狼谷くん!?」
びっくりした。純粋に後ろへひっくり返りそうになった。
よろめいた私に、彼は目を見開いて階段を駆け下りてくる。
「ちょっと。大丈夫?」
腕を引いてくれたおかげで重心が安定した。
それはいいとして、元はと言えば狼谷くんのせいだ。
口を開こうとして、私ははたと気が付く。
「あの、狼谷くん」
「ん?」
「今の、聞いてた……?」
そこまで大きい声で話してはいなかったけれど、いつから彼がいたのか全く分からない。
狼谷くんは数秒黙り込んで、それから「何が?」と問いかけてくる。
「あっ、ううん、何でもないよ。それより、やっぱり何か買うものあった?」