能ある狼は牙を隠す
アンサーを投げ出した私に、狼谷くんは黙り込んだ。
会話終了、なのかな。
机の横のフックに掛かっていたお弁当箱に手を伸ばした時、
「体だけの関係。そういう『友達』だよ」
あまりにもあっさりと告げられて、理解が遅れた。
私には未知の世界すぎる。多分だけど、一生縁がない。
「……そっかあ」
気の抜けた返事になってしまった。
でもこれ以上、何を言っても正解にはならない気がする。
狼谷くんは俯いたまま、「クズでしょ」と零した。
「自分がクズなのは分かってるよ」
私はその言葉を、開き直りとしては聞かなかった。
彼の声色は悲しげで、何かを悔やんでいるようなものすら感じる。
「そうかな?」
それだけ返して、私はお弁当箱を鞄にしまった。
足早に教室を出て、保健室に向かう。保冷剤をもらってハンカチに包んだ。
教室に戻って狼谷くんの目の前で立ち止まる。
少し赤くなっている彼の右頬に保冷剤を問答無用で押し当てて、私は笑いかけた。
「ちゃんと冷やさないと、せっかくのイケメンが台無しだよ」