能ある狼は牙を隠す
その情報は確かに間違っていない。
いつもテストの点数は国語が一番良いし、唯一楽しいと思える教科だ。
ただ、今回に至ってはちょっと例外で。
英語と数学に集中してしまっているから、実は国語の方はあまり手をつけられていない。
「ここの現代語訳、授業で聞いてたはずなんだけど、昨日やってたら何かごっちゃになってきちゃって……」
「あ、ここ難しいよね。和歌もあるから、意味とか分かりづらくなってるところだよ」
えーと、と口の中でもごもご言いながら文章に目を走らせる。
大体の意味は分かるけれど、テストではそれじゃ駄目だ。
正直完璧な自信がないし、他の人に聞いた方が確実だろう。
そう結論づけて顔を上げ、カナちゃんに声をかけようとした時だった。
「え〜! 玄、今日早くない? おはよ〜」
「いっつもぎりぎりなのに珍しー」
少しざわついたのは、どうやら狼谷くんが登校してきたからみたいだ。
確かに彼がこんなに早く――といってもみんなからしたら遅い方だけれど――来るのは珍しい。
すると、狼谷くんの目が動いてこちらを捉えた。
視線が交わって、なんとはなしにへらりと笑ってみせる。
「九栗さん、行こう」
「えっ?」