能ある狼は牙を隠す
やいのやいのと言い合う二人に、周りのみんなは「また始まったか」といったように苦笑している。
元々の性格もあるのか、九栗さんと霧島くんはクラスのムードメーカー的な存在だ。
二人の周りにはいつも自然と人が集まっている。
「二人とも、狼谷くんに勉強教えてもらってるのー?」
そう混ざってきたのは、九栗さんと仲のいい女の子だ。
「そうだよー。放課後とか付き合ってもらってる!」
「へえ、そうなんだ!」
友達が実際に接しているのを見て害はないと判断したのか、狼谷くんの前の席だったその子は、振り返って質問を投げかける。
「ねえねえ狼谷くん、実は私もここよく分からないんだけど、いい覚え方とかあるかな?」
「あー……それは、」
と、やはり律儀に答える狼谷くん。
そこから伝染するように、彼の周りには教えを乞うクラスメートが集まっていた。
「な、何かすごいことになってる……?」
今まで様子を窺っていた人たちが、一気に押し寄せてきたような。
呆然と人だかりを眺めていると、後ろから肩をたたかれる。
「白さん、おはよー」
「津山くん!」