能ある狼は牙を隠す



「あー、白。ちょうどいいところにいた」


廊下を歩いている途中、森先生がそう呼び止めてきた。
どうせ雑用でも頼まれるんだろうな、とげんなりした気持ちで振り返る。


「何でしょう……」

「こないだの模試の自己採点見たぞ。英語、頑張ったなー。一年の時と比べてすごい伸びてた」

「ほ、ほんとですか!」


思わず大きめのボリュームで返事をしてしまった。
てっきりこき使われるものだと思っていたから、想定外に褒められると嬉しい。


「最近、九栗や霧島とも勉強してるって聞いたけど。狼谷に見てもらってんのか?」

「あ、そうなんです。狼谷くんには本当にお世話になりました」

「はは。頭上がんないなー、それは」


生徒の成績が良いと先生の機嫌も良い。
やっぱり俺の見立ては間違ってなかったろー? と、調子に乗り始めたので軽く受け流しておく。


「まあ、というのは冗談でな。白には感謝してるんだ」

「えっ? わ、私ですか?」


くるりと方向転換した謝辞に戸惑ってしまう。
人差し指で自分の顔をさしてまで確認した私を、先生は笑い飛ばした。


「狼谷の遅刻もここ最近めっきり減ったからな。授業もちゃんと受けてるし、丸くなったみたいで安心した」

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