能ある狼は牙を隠す


言われてみれば確かに。
狼谷くんとは最近よく玄関で会うし、前まではサボりがちだった授業も毎回きちんと出席している。


「いや、それは狼谷くんが頑張ってるからで……私は関係ないですよ」


彼に直接「ちゃんと学校に来なさい」と先生みたいに叱った覚えはないし、「サボっちゃだめだよ」と注意した記憶もない。


「そんなことないぞ。やっぱり人に教えるとなると責任感が生まれるものだからな。狼谷もちゃんと授業受けて、白たちに教えなきゃって思ったんだろ」


うーん。そうだとしても、それは狼谷くん自身の問題だと思うんだよなあ。
いまいち納得できないでいると、先生は「それにな」と続ける。


「少なからず白に感化されてるとは思うぞ。四月からのお前たち見てると、随分雰囲気変わった気がする」

「そうでしょうか……」


そりゃあ多少は仲良くなれたし、彼の態度も少しずつ変化していっているのは分かる。
でもそれは純粋に時間の経過がそうさせたのであって、ごく自然なことのように感じた。

床を見つめていると、先生の手がずっしりと肩に乗る。


「ま、そういうわけだ。今後も狼谷のこと、頼んだぞ」

「え!?」

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